孵(かえ)らない想いを抱いて
他愛の無い、馬鹿話。
勝手知ったる何とやら。
ああ言えばこう。こう言えばああ。
繰り返したい、予想可能なroutine。
「ノーブーっ!!」
明らかに好意的では無い声に清田が振り返ると、視線の20センチほど下に、見知った顔があった。
「にゃに?」
HRの後、いそいそとドラムバックを担ぎ上げ教室を後にしようとしていた矢先。練習前にカロリー注入、とばかりに頬張ったメロンパンを咥えながら清田は答えた。途端に、ずい、と鼻先に日誌が突き出される。
「あんた、日直!」
「無理。俺、練習あるから。」
「何、それ。」
海南大学付属高校バスケ部の自称スーパールーキーは、部活以外のことには極力体力を使いたくないようで。その割りに、体育のソフトボールなんかは頼まれても無いのに大張り切りだ。要は、面倒くさいことはしたくない、それだけだろう。コイツは昔からそうだった、と日誌を押し付けつつ彼女は思う。
「あたしだって、練習あるんだから。」
「お前は補欠だろ?おれはスターティングメンバーに入れるかどうかの瀬戸際なの。今が勝負なの、お解かり??」
「・・・全っ然わかんないし、解ってやる義理もない。」
「硬い事言うなよ〜。俺とお前の仲じゃんか〜。」
百点満点の笑顔でなれなれしく肩をばんばん叩く男を、彼女はとても迷惑そうに見た。
「それとこれとは、話は別。大体、日直もできないようなヤツがスタメン張れるわけがない。」
「それができちゃうのが、天才ってやつよ。」
「あら、そ。あんたが天才ならこの世は天才って馬鹿で溢れかえっちゃうだろうね。」
「なにいっ!!??」
瞬間沸騰器の性格も知ってる。イヤって程。なのにわざと意地悪を言ってしまう、この動機はなんだろう。
ぎゃいぎゃいと文句をたれる清田に、彼女は溜息をつきながら言った。
「この日誌、もう書いてるの。ゴミも捨てとくし黒板も消しとく。これ、職員室まで持って行ってくれればいいから。」
そう言われた清田は、先程までの喧騒が嘘のように、きょとん、とした目をした。もう終わってるの?持って行くだけ?マジ?そんなことをぶつぶつ言いながら、やっぱり特大の笑顔を供給する。
この反応も、ずいぶん前から知っている。その上、これが嫌いじゃない。あたしもつくづく馬鹿だ、と思う。結局同じ大馬鹿者。昔も、これからも、きっと。
「・・・死ぬ気でスタメンとんなさいよ、天才君。」
「まっかせなさい!」
大声で、恥ずかしいほどのVサイン。
本当は解ってる、私がアイツに甘い動機。でも認めたくないその理由。
今は、この曖昧なままが心地いいので。もう少しだけ、この距離で。
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*Postscript
信長は友達が多そう。クラスメイトは全員親友(と、彼は思っているというところが喜劇:笑)。
この話の彼女は幼稚園から一緒の地元のツレという設定。